硝子体注射とは?
抗VEGF抗体治療の基本原理
硝子体注射(抗VEGF抗体治療)とは、VEGF(血管内皮増殖因子)の働きを抑制することで、異常な血管の増殖や漏出を防ぐ治療法です。VEGFは網膜に異常な血管を生じさせたり、血液や体液の漏れによってむくみ(黄斑浮腫)を引き起こす原因となります。
これを抑えることで、視力の低下を食い止め、症状の改善が期待できます。
注射の方法と治療の仕組み
抗VEGF薬を、眼球内の硝子体腔に直接注射することで、病変部位に高濃度の薬剤を届けます。処置は短時間で行え、局所麻酔と滅菌下での管理により、安全性も高いです。
痛みはほとんどなく、外来で受けられる低侵襲な治療法として広く普及しています。
主に使用される薬剤
現在、以下のような抗VEGF薬が使用されています。
- ルセンティス(ラニビズマブ)
- ・承認済みで安全性と実績のある薬剤
- ・幅広い疾患に使用され、効果が安定している
- ・ラニビズマブBS(バイオ後続品)というすこし安価な薬剤も販売されています
- アイリーア(アフリベルセプト)
- ・効果の持続が長く、注射間隔を延ばしやすい
- ・加齢黄斑変性などの第一選択薬となることも多い
- ベオビュ(ブロルシズマブ)
- ・比較的新しい薬剤で、注射頻度の軽減が期待される
- ・一方で、眼内炎などの副作用に注意が必要とされている
このように、薬剤ごとに特徴や効果の持続期間、副作用の傾向が異なるため、患者の症状や生活スタイルに合わせて選択されます。
硝子体注射(抗VEGF抗体治療)の対象となる主な疾患
加齢黄斑変性(滲出型)
網膜の中心にある黄斑部に異常な新生血管が生じ、出血や浮腫を引き起こす病気です。ものがゆがんで見える、中心が暗くなる、視力が落ちるなどの症状が見られます。
抗VEGF薬により血管の成長を抑え、視機能の維持・改善を目指します。
糖尿病網膜症・黄斑浮腫
糖尿病により網膜の血管が破れたり詰まったりすることで、網膜にむくみ(浮腫)が生じ、視力に影響を与えます。抗VEGF薬は血管の漏れを抑えることで黄斑浮腫の改善に効果を発揮します。
網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫
網膜の静脈が詰まり、血液や体液が漏れることで黄斑にむくみが起こります。視力が急に下がるケースもあり、早期の抗VEGF治療が視機能回復のカギとなります。
治療の流れと通院頻度
事前検査と診察
まず視力検査や眼圧測定を行い、網膜の状態を詳しく確認します。OCT(光干渉断層計)による断層画像や、蛍光眼底造影などの検査により病変の広がりや活動性を把握します。
これらの情報をもとに、使用する薬剤や治療方針を医師と相談しましょう。
注射当日の流れ
抗VEGF薬の硝子体注射は外来で行われ、短時間で完了する安全性の高い処置です。当日の流れは以下のとおりです。
受付・問診
来院後、受付と簡単な問診を行います。体調や前回の注射後の経過を確認し、安全に処置を行える状態かを判断します。
点眼による局所麻酔
目の表面に麻酔用の点眼薬を使用し、痛みを感じにくくします。針を刺す感覚もほとんどない程度まで麻酔が効きます。
目の消毒と準備
まぶたやまつげ、眼球周囲を丁寧に消毒し、清潔な状態を保ちます。術野を確保するため、顔には滅菌ドレープ(布)をかけます。
抗VEGF薬の注射
無菌環境下で、非常に細い注射針を使って薬剤を硝子体内に注入します。注射は数分で終了し、ほとんど痛みを感じることはありません。
術後の安静と確認
注射後は10〜30分ほど院内で安静にし、眼の状態に異常がないかを医師が確認します。異常がなければ次の案内へ進みます。
帰宅と注意事項の説明
問題がなければその日のうちに帰宅できます。看護師や医師から、当日の入浴・洗顔の禁止、処方された点眼薬の使い方、注意点などの説明があります。
治療の頻度と継続期間
初期には1か月ごとに3回程度の注射を行う「導入期」が設けられ、その後は効果を見ながら、必要に応じて注射を続けていきます。治療計画は以下のような方法が取られることがあります。
- ・PRN(必要時投与):悪化の兆候があった時のみ注射する方法
- ・Treat & Extend:注射を継続しながら、状態が安定していれば間隔を徐々に延ばす方法
いずれにしても、継続的な通院と経過観察が必要です。
硝子体注射のメリットと注意点
治療のメリット
抗VEGF治療は、視力の維持や改善が期待できる数少ない治療法です。入院の必要がなく、短時間の外来治療で済む点も大きなメリットです。
また、高齢者や全身状態に配慮が必要な患者にも適用しやすい治療法といえます。
副作用やリスク
注射後に軽度の異物感や出血が見られることがありますが、ほとんどは数日で改善します。ただし、ごくまれに以下のような重篤な合併症が起こることがあります。
そのため、術後に強い痛みや視力低下があればすぐに医師へ相談する必要があります。
生活上の注意点
注射当日は洗顔や洗髪、入浴を控えましょう。清潔を保つために処方された抗菌点眼薬を数日間使用します。
目をこすらないよう注意し、医師の指示どおりに生活することが重要です。定期的な通院も忘れず、異常があれば早めに対応しましょう。